(2024.2.1)
この度、岳南朝日新聞さんの「ヒューマンストーリー」のコーナーにて、なかなか大きく社長のことを取り上げていただく機会を頂戴しました。この新聞記事を読んでいただいても社長の未来への森のプランが熱く語られているのですが、短い時間では伝えきれなかった部分がありますのでそこを少しだけ補足しながら本日は筆を執らせていただきたいと思います。
社長が目指すのは「100年先を見据えた森づくり」です。この一言からは、想像しにくいかもしれません。そんな大きなことを言っても自分は100年先なんて生きていないし関係ないと思ってしまったそこのあなた。実はこれは100年も先のことではなく、1年後、10年後の近い未来にとっても関係ある事業であることをお伝えしたいと思います。
「親が植え、子が育て、孫が伐る」、森はそのとき木材を伐り出すだけではなく、木の成長の間には水を貯えたり、二酸化炭素を吸収したり、自然災害を防いでくれる機能もあり、これは多面的機能と呼ばれます。私たちが生活する上でとても大切な役割です。
森は様々なことをわたしたちに与えてくれます。そんな森を人間の都合だけで利用するのではなく、森と協力して助け合い、末永く共存していかなければならないと思います。
その私たちの仲間である森を強くたくましく育てるためには、森を適切に管理していく必要があり、その管理を継続して行うためには道が必要となります。また道があることで間伐作業や整備を行うことができ、生産目的で育てた木を運び出すことができます。さらに同時にこの道から山に入って管理することで環境保全も維持していくことができるので、森にとっても人にとっても、きちんとした作業道を作ることはとても重要なことなのです。
今の林業スタイルは、高性能林業機械(ハーベスタ)など、なかなか普段の生活ではお目にかからないような大きな機械で、たくさんの木材を伐り出す方法が主流となっております。そのため大きな重機が通れるように道もその分広く作っています。 広い道を作る分、削る土が多くなり、特に急傾斜地ではこれがさらに多くなります。そして削る土が多ければ多いほど山への負担は大きくなり、大雨の際に土砂崩れの原因となることもあります。ただ近年の木材価格の安さから、低コストで作業効率が良い方法を取らなければ、採算が取れない現状もあるのです。
一方、社長の行う急傾斜地の林業スタイルは、小さな重機で少しずつ木を伐り出す方法で山にとって負担が少なく、さらに堅固で強い道づくりをすることによって、災害にも強い山を作っていくことができます。この技術は国内きっての林業地帯で、急傾斜地の多い土地である奈良県吉野郡で培われている技法です。この技法を使って奈良県吉野で40年以上現場をやって来られた野村正夫先生のご指導のもと、現在社長は富士宮市上柚野の森林を手掛けています。
まず山の崩れない硬い地層の尾根に沿って道の主線を作ります。そして水を一か所にためないよう、葉の葉脈のように支線を作ることで雨水を分散排水し、路面が簡単に崩れないように木組みをすることでより頑丈な道にしていきます。そうする事で2~3tダンプが走行可能になり、タイヤで走行することでさらに踏み固め、堅固な道になります。 実際にこの道づくりの過程で大雨が降った日もありましたが、水の排水がしっかりと取られているおかげで、道づくりの際に懸念される泥や黒水が山の下に流れ出ることはありませんでした。
また、道を作る際にでた余分な土は別の道づくりの際の勾配修正などに利用し、山で出たものは山に組み込んで無駄が無いよう作っていきます。そしてこの道を伝って広く分散排水させることで山全体にミネラル豊富な水が分散され、土壌や木々の成長にもつながります。今までのように低コストで開設した作業道を大型重機のキャタピラで走行すると土は掘り起こされ耕したような状態となってしまうので、ここに雨が降ると田んぼのように緩い状態となり、道が乾くまで山へ入ることが困難となります。
また今の林業の大きな道とは違い、必要最小限に小さく作った堅固な道は安全作業が出来るので長期的に使用することができます。なんと実際に、奈良県吉野にある野村先生の作った道は半世紀近く経った今でもしっかりと残っているのです。この道は、山の下から見た際には山になじんで道を見つけることができないくらい、道のすぐ近くまで木が生えています。そして作業員だけでなくその山の山主さんも安心して軽トラなどで自分の山を自分の目で見に行くことができるようになります。従来の道はキャタピラか徒歩でしか入ることができないので自分で見に行くには大変で、山と疎遠になる山主さんも多くいらっしゃいましたが、これならいつでももっと身近に自分の山を知ることができます。
さらに山へ入ることを臆さず容易にできることで、エコツーリズムにも繋がっていきます。地域ぐるみで森林のさらなる魅力を見つけ観光資源となれば、また新たな地域活性化の可能性も見えてきそうです。
そしてこの奈良県吉野のやり方のもうひとつのメリットは木の成長量と伐り出し量のバランスがいいことです。超保全型林業と言えます。今の林業スタイルでは一度に多く伐り出せる分、山が回復するまでに時間がかかっていましたが、この技法であれば山の成長と共に少しずつ伐り出していくことができ間伐回数を多く出来ます。長期的に見れば間伐木がどんどん優良木になるので質の高い木材生産が可能となり、高い環境保全も守ることができ、自然災害に強い山づくりに繋がります。
これが社長の目指す持続可能な未来のための森づくりです。しかしこの技法は今の林業スタイルにくらべて非常にお金も時間もかかり、また高い技術力が必要とされます。そしてこれだけ森林のことを考えた森づくりをしても行政からは従来作業と同じ補助額しか出ません。この技法をもっと広めて、森にも人にも必要な方法だと知ってもらい、山にとって、またわたしたちの未来にとって良い方法であるということを、まだまだ多くの人に理解を得る必要があります。
そのためには言葉でお伝えするよりも、まずは社長自身が手掛けた山を身近な近所の方に見ていただき、山主さんたちに山の内部を知っていただき、いかに強くたくましい山に成長したのかを実際に多くの人に感じてもらうことで、今後の森づくりへ繋がっていくのではないでしょうか。
100年先を見据えた森づくり、その未来を信じて今後も社長は山へ入り続けます。
記:ハヤシ